探検日誌5 ロットネスト島探検記2

謎の未確認巨大生物クオッカ

ロットネスト島を探索するにあたり、一番重要視していたのは池や湖の存在だった。
なぜなら、動物達は飲み水を求めてその周辺にやってくるからだ。
しかし、それは逆に危険な場所でもあるのだ。
陸上動物のほかに、ワニやピラニアなどの危険な水棲生物もいるからである。
未確認巨大生物クオッカとて例外ではないだろう。
素人はそのような場所では危機センサーが緩みがちになるのであるが、
私の場合はまったく逆である。素人ほど危険なものはない。
私に同行するスタッフ達などを以前はよくたしなめたものだ。
いまではそのスタッフ達も一人前に成長し、私ほどではないが強力な危機センサー
を持つに至っている。人が危険な探検の中で成長していくのを見るのは、私の無上の
喜びでもある。おっと、私の気持ちなどどうでもいいことであった。
再び探検の話しに戻そう。


ガイドの説明によると、湖は島の中央部に位置するという。
私とガイドは島の中心部を目指して歩を進めた。
湖が近くなってきたとき「ギョエ〜」という鳴き声が聞こえてきたと同時に、カモメの大群が
我々を襲ってきた!
私はとっさに我々の食料であるアジの開きを大量に放り出した。
カモメ達がアジの開きに気を取られている間に、我々はその場から脱出することに成功した。
私の機転が無かったら、恐らく人食いカモメに食べられて一巻の終わりであっただろう。
数々の危険を乗り越えてきたガイドでさえ今回はうろたえていただけであった。
私の危機回避能力にさしものガイドも驚きを隠せなかった。
「トメラリア〜ン、カンペオ〜ン、タマランチ〜」
どうやら私の弟子になりたいというとことを熱望しているようだったが、私は弟子を取ることはしない方針であるので、その申し出をあっさり断った。
ガイドの目は少し悲しげであったが、そのことは今回の探検とは無関係であるので、これ以上話すことではないだろう。また話しが少し脱線してしまったようだが、私の癖なので勘弁して欲しい。


その他にも数々の危機があったのであるが、ここに書ききれないので割愛することとする。
そこら辺のことは、後日出版する予定でもある私の本を読んで見て欲しい。
ようやく湖に着くとそこはピンクの水面の湖であった。私の調査したところによると湖の中に生えた藻に付着するバクテリアの反応によるものであった。
これほど美しい湖を私は見たことがなかった。さすがの私も危機センサーが緩んでしまい、
うっとりと水面を見つめてしまった。
と、その時である!
ガイドが大きな声で「パンナコッタ、クオッカ、タマランチ〜」と叫んだ!!
私は「しまった」と思った。湖の美しさに危機サンサーが緩んでしまっていたからだ。
が、まだ挽回はできる。失敗した時にどうリカバリーするかがプロの探検家と素人の違いである。


私は即座に身を伏せ、危機回避行動に出た。
その次の行動は瞬時の状況把握である。動態視力が常人の数十倍はある私の眼が、ゆうに5mはあるであろう謎の未確認生物クオッッカの姿を捕えた!やはりクオッカは実在したのだ!!
「タマゲ〜タ、ニゲマ〜ショ、タマランチ〜」とガイドが再び叫ぶ。直訳すると、とにかく逃げましょうということであった。私は身体を起こし一気に駆け出した。自慢ではないが、町内競歩大会で優勝したことがある私であるから、逃げ足は誰よりも速い。
先をゆくガイドをあっさり追い抜くと、私は巨木によじ登った。
続いてガイドもよじ登ってくる。あまりの恐怖にガイドは頭で私のお尻を突き上げる!突き上げまくりやがる!!
おぃおぃ、そんなに小突き上げるなよ!!
焦る私も気が動転していたのだろう。つい大声を張り上げてしまった。
あまりの恐怖にガイドが女性という事も忘れて、気遣うことが出来なかったのは私の未熟さが露呈してしまったのだろう。とにかく二人は巨木の上に無事避難することができた。


未確認生物、いや、もはや未確認生物ではない現実の生物クオッカが、私達のよじ登った巨木の下でうろついている。写真はそのときに巨木の上から撮ったものである。小さく見えるかも知れないが、体長は5m以上あることに疑いの余地はない。百聞は一見にしかず。その恐ろしい姿は説明する必要もないだろう。我々は木の上に一晩中よじ登っていたが、夜明けにはクオッカの姿は跡形もなく消えていた。恐らく巣に帰ったのであろう。追跡することも出来なくはなかったが、体力を消耗しきってしまった二人には危険が大きすぎると私は判断した。
探検にはこのような時に撤退も一つの選択肢である。前進よりも撤退する勇気こそが重要であると私は常日頃考えている。苦渋の決断だったが、私はロットネスト島を後にすることにした。ロマンを解明することは大事なことではあるが、自らの命を守ることこそ次への探検のロマンが開ける道であると私は考える。
ロットネスト島・・・またいつか探検にくるであろう。
そのときこそ、クオッカとの最終バトルとなるであろう。
インド洋に沈む太陽をクルーザーの上から見つめ、その日が一日でも早く来ることを願いつつロットネスト島に別れを告げた。


探検隊長 コーディー